トルコ、まずは大幅利上げで危機収束を

中ロ接近のトルコ 米国との関係修復も不可避
 トルコが金融危機に陥りかねない、と本稿に書いてから一週間程度しか経っていない。その後も、トルコリラは8月10日(金)に一日で10%急落した後、週明けも対ドルレートで下落を続けて一時7.7362の市場最安値を付けた。

 トルコリラの下落率は、今月に入って28%、年初来では40%に達した。世界の株式市場では欧米のみならず、日経平均株価まで、このトルコショックで連日の大幅下落となった。

 株価についてはトルコ向け与信の多いスペインのBBVA、フランスのBNPパリバ、イタリアのウニクレディットなど欧州銀行の株価がまず急落した。ちなみに国別与信残高をみると、スペインが833億ドル、フランスが384億ドル、イタリアが170億ドル(いずれもBIS統計)となっている。

 例えば、イタリア最大の所業銀行であるウニクレディットはトルコの地場銀行Yapikrediに40.9%を出資しているが、最大25億ユーロの償却が必要とみられ、同行株価は8月に入って11%も下落している。通貨ユーロも対ドルで1.4台をも割り込み、対円でも126円台へと急落している。

 国際金融の専門家の間では、当初、トルコ、アルゼンチンや米国の核合意離脱と制裁強化にあっているイラン(年初来60%の下落)を除けば、他の新興国まで通貨不安が波及することはなかろう、というのが大方の予測であった。しかし、アルゼンチンはトルコリラの暴落につられる形で売り圧力が増大、すでに40%という危機的水準にある政策金利を5%引き上げるという緊急利上げを余儀なくされた。

 さらに先週末以来、南アフリカのランドが10%も下落して2年ぶりの安値に沈んだほか、経常収支、財政収支の赤字や高インフレを続けるブラジル、ロシアの通貨も5~7%の大幅下落となった。

 トルコの経済自体は7%成長を続けていて健全である、との見方は誤りである。元々、エルドアン大統領が自らの再選と総選挙を控えて積極的に財政刺激策を採用してきたうえ、15%を上回るインフレ高進にもかかわらず中央銀行の利上げを抑えてきたことが景気過熱を生んだに過ぎない。

 財政赤字の増大に加えて内需拡大による輸入の増加で経常収支の赤字も拡大してきた。また景気の拡大は企業、銀行を中心に対外借り入れを増やしたことも寄与している。銀行部門では2009年の世界金融危機以前と比べて対外債権が400億ドル減少する一方、対外借り入れが500億ドルから1,200億ドルに膨らんでいる。

 企業の対外債務も3,000億ドルに達している。このため、今年の外貨ファイナンスの必要額は2,000億ドルを上回るとみられており、自国通貨の暴落と金利上昇でこの巨額の負債をロールオーバーできるかが危ぶまれている。典型的な通貨危機のパターンであ。

 また注目されるのはトルコ政府が対米関係の悪化を背景に、ロシア、中国、カタールなどに接近を図っていることだ。ロシアのプーチン大統領は元々、シリア問題やS400ミサイルのトルコへの売却で接近を図ってきた。今回もトルコの要請に基づき、トルコ向け貸付を約束したようだ。

 中国に対しても「中国商工銀行から36億ドルの融資供与を受ける」(アルバイラク財務相)とするなど、関係強化に動いている。エルドアン大統領が声高に叫ぶように米国との関係悪化を恐れず、ロシア、中国などに接近していく懸念が高まっている。その一方で西欧、NATOとの関係が希薄化する「新しい同盟関係」を目指すと伝えられているだけに、ことは経済問題だけでは済まなくなる。

 このように、トルコの通貨危機期を一刻も早く収束させないと、1)同国のファイナンスが悪化してデフォルトに陥りかねないこと、2)他の新興国への波及が強まること、3)ECB関係者が懸念していると伝えられているように欧州銀行を中心にトルコ向け与信が不良資産化して金融システムに大きな悪影響が及びかねないこと、4)トルコが西側諸国との同盟を見直す可能性もあること、など世界の政治・経済に大きな悪影響を及ぼしかねない。

 では、難しい問いではあるが、トルコの通貨危機を収束させるにはどうしたらいいのか。第一には早急に大幅な利上げを実施して通貨防衛の意思を示すことである。トルコリラ暴落の一つのきっかけは7月下旬に17.75%の政策金利の引き上げが必至とみられていたのに、政府の圧力に屈してトルコ中銀が利上げを見送ったことにある。エルドアン大統領は「高金利は金持ちをより金持ちに、貧乏人をより貧乏にするだけ」と自説を曲げていないが、まずは早急に大幅利上げに踏み切ることが投資家の信頼回復には不可欠である。

 第二には米国トランプ政権との和解を模索することである。二年に亘る拘束を解かれた米国福音派のブランソン牧師を解放せずに自宅軟禁したことがトランプ大統領との対決を生んだきっかけである。トランプ政権としては中間選挙を控えて、大統領選得票数の1/3を占めた最大の票田である福音派の歓心を買う必要性に迫られているのがその背景にある。